風のワルツ

宝塚歌劇、楽しくブログで綴ります。

雪組『ハリウッド・ゴシップ』感想(前編) 彩風咲奈 ーダウンタウンで見つけたもの

 

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『ハリウッド・ゴシップ』感想①です。

今回は主演の彩風咲奈(コンラッド)さんの感想を中心に話を広げていきたいと思います。
ネタバレありますのでお気をつけください。

 

 

1920年代「狂乱」のアメリカ

 
「狂乱」「狂騒」と表現される1920年代のアメリカ
力強い社会、芸術、文化が花開いた時代。 

ジャズエイジ、フラッパー、アール・デコといったフィッツジェラルドの「華麗なるギャツビー」の世界はまさにその時代の象徴。

煌びやかで派手派手の時代!

 

そして映画界ではサイレント(無声)からトーキー(有声)へと移行する時期であり、試練の時期を迎えてました。

そんな時代を駆け抜けた1人の青年コンラッドに、彩風咲奈

咲ちゃん、この日を待ってました!

 

コンラッド /  彩風咲奈

 

「ハリウッド・ゴシップは、人生の忘れ物だったり、当たり前にある大事な物だったり、何かを見つけられる作品」

咲ちゃんからの作品についてのメッセージです。(NOW ON) より。

人生の忘れ物、見つけることができるだろうか。

 

夢を追う青年 コンラッド

ストーリーは、1人の青年が夢に向かって歩む過程で挫折したり、様々な人に出会うことで成長し、ついに栄光を手にするところで立ち止まり、自分にとって本当に大事なものは何なのかに気づく…

というコンラッドの人生のひとこまの物語です。

このひとこまは彼にとって愛する女性と出会い、これからの人生を力強く生きていく決意をするかけがえのない時間なのです。

2幕の後半はストーリー展開がやや急ぎ足。
だけどコンラッドとして生きる咲ちゃんが、最初から最後まで舞台の舵をしっかり取ることでラストシーンまでストーリーに引き込まれ、そのあとのショーへと綺麗に流れていった感じです。

 

キラキラ彩風咲奈 

咲ちゃん、この作品は久しぶりのキラキラのかっこいい青年役

キャリエールや大野次郎右衛門は静かで平穏な顔の裏に苦しみ、葛藤を心の内に秘めたストーリーの要ともなる難しい役でした。

咲ちゃんが望海さんにとって、雪組にとって本当に大きな存在になったことは、数々の雪組公演の素晴らしさに表われています。


今回のコンラッド役は今まで難役で培ってきた力が発揮されて、いい意味で余裕を持って演じているように見えました。

ハリウッドで成功することを夢見て大都会の片隅で必死にもがき苦しんでいる。

コンラッドは今までの耐える役柄とは違い、若者らしく感情的で、思ったことを口に出す等身大の人間。

途中、おごりからちょっと嫌な男になったりもする。

特に出会う人、一人一人との関わりでコンラッドの人生が大きく変わっていくところは、咲ちゃんにとっても大きな見せ所となったと思います。

 

さびれたカフェの女主人(早花まこ)

ダウンタウンの とある寂れた(失礼!) 小さなカフェ「ダイナー」

ぶっきらぼうで目つきの鋭い(笑)個性的な女主人
笑顔で健気に働くウェイトレスのエステラ(潤花)と。

このカフェで出会うコンラッドとエステラ

この時はコンラッドは気づいてませんが、このカフェで彼にとって一番大切なものを見つけることになります。

 二人を出会いからずーーっと見ている(見守っている?)女主人のきゃびぃさん、最高に面白かった

一言で笑いを取る→行動で笑いを取る→睨みだけで笑いを取る→最後は登場するだけで笑いを取るという素晴らしさ!

 

この店にはユニークな常連さんがいます。

一人はおばあさん(羽織夕夏
亡くなったおじいさんと一緒に過ごしたカフェ、今はひとりで過ごす時間、向かいの席には誰もいない。

一人はおじいさん(真那春人)
いつもカウンターでまどろんで夢の中。

エステナは女優に抜擢されても発表ギリギリまでウェイトレスとしてここで働きます。ここに集う人たちから学べることが多くあると。

馴染みのカフェで人と触れ合ったり観察する。
今はそんな光景を見ることは少なくなりました。

街に溢れるカフェ。
今は誰も人の顔など見ない。
窓の景色も見ない。
ややもするとコーヒーの香りすら意識にないかも・・。

 

ダイナーにいる時のコンラッドはいつもくつろいでいて、咲ちゃんの顔もここでのシーンは緩んでいるのがよくわかり、私も緩みました。


張り詰めた世界で勝負するコンラッドにとって、素の自分でいられる場としてこのカフェのシーンはとても大きな役割を果たしているように感じました。

存在感を出したきゃぴぃさんと、可愛いまなはるおじいちゃん、はおりんおばあちゃん、ダイナーメンバー最高に良かったです。 

 

エステラ(潤花)とコンラッド

エステラはウェイトレスの時も女優となっても、周りに決して流されず、自分をしっかり持っている強い女性です。
かのちゃんのお芝居は自然で、芯の強さがしっかり伝わってきます。

夢を追うあまり自分を見失いそうになる人間的なコンラッドに対して、エステラは地に足がついている出来すぎた女性、という構図です。

あの公演ポスターの意味がよくわかりました。
実際にコンラッドをぶったりはしません。

かのちゃんのヒロイン力、存在感は古き良き宝塚娘役の風情を残しつつ現代的、懐かしさと新しさを同時に感じます。
この役にとても合っていたように思います。

 

大女優アマンダ(梨花ますみ)の教育

アマンダの教育を受けて、コンラッドがみるみる垢抜けたスターへと変わっていく様子は見ていて楽しく、これほどみとさんがアマンダ役にハマるとは驚きでした。

だって壬生義士伝では咲ちゃんのお母様役だったから…(ごめんなさい)

貫禄があって本当に大女優でした、さすがです!

アマンダ邸の執事(真地佑果)、まちくんのダンスのレッスンシーンは迫力あり笑いありでユニークな存在が光りました。


勝利をつかんだ夜、まだジェリーを愛しているアマンダがあまりに切なく、咲コンラッドがそっと彼女を抱きしめるシーンが素敵。

本当に大切なものに気づく男と女。

男(コンラッド)はすぐに大切な人(エステラ)の元へ飛んで行く。
女(アマンダ)の愛する人(ジェリー)は恐らくもう帰って来ない。

 

激しい雷雨の音とアマンダの泣き声が悲しく響いて、とても印象深いシーンです。

アマンダがコンラッドに言います。

舞台は「美しい嘘」だと。
現実は醜いと。

みとさん、素晴らしい演技でした。

 

エキストラはキレッキレダンサー

煌羽レオ / 眞 ノ宮るい / 縣千

コンラッドの仲間で、エキストラで頑張る3人。
彼らだってハリウッドでの成功を夢見てるんです。
それは奇跡のようなことだけど。

栄光を手にして変わっていくコンラッドとは溝ができてしまいます。
それ故に起きてしまう悲劇は止めることができなかったのか。

このことはコンラッドの人生に暗い影を落とすことになるでしょうけど、それも人生。

友情が壊れていく時のそれぞれの切ない表情が忘れられません。

この3人のダンスは凄い!
かりちゃんの色気と渋さ、はいちゃんの爽やかさ。
特に縣くんはフィナーレでの翔ちゃん(彩凪翔)とのタンゴが一際かっこいい。
大勢の中にいてもパッと目立ちますね。

 

ハッピーエンドはダウンタウンで

お芝居の最後のシーン、とても素敵な終わり方。

ハッピーエンドの場所は、二人が夢見た華やかなハリウッドの舞台でも豪華なレストランでもありません。

あの寂れた(ほんと失礼!) ダウンタウンのカフェ「ダイナー」でした。

新たな道を力強く踏み出そうと二人が誓う場所がダイナーというのがとてもいい。

楽しそうに踊る二人と一緒に、女主人や常連さん(おじいさん&おばあさん)もいつの間にかペアで踊っていて、とても可愛くて温かいラストシーンです。

 

フィナーレでは一転、ショースター彩風咲奈

長い手足を自由自在、伸びやかに、かっこよく。
誰のダンスとも違う咲ちゃんのダンス、しなやかに。

かのちゃん(潤花)とのデュエットダンスはため息が出るほど美しくて眼福です。

 

 

大切なもの

 

コンラッドとエステラはあの後どうなったでしょう。

この狂乱の時代は1929年ウォール街の暴落で終止符、ハリウッドも巻き込まれて世界恐慌の時代へ入ります。

 
冒頭で伝えた咲ちゃんからのメッセージの人生の忘れ物や大切なもの。
それは案外身近にあるものかもしれません。

私が観劇したのは梅田シアター・ドラマシティでの初日でした。
挨拶でハリウッド映画より吉本新喜劇を見て育ったと言う咲ちゃんの言葉に親近感を覚えて、土曜の午後に大笑いしていた可愛い咲ちゃんを想像して微笑ましい気持ちになりました。

 

来年雪組公演『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』の世界は1920年代のニューヨーク、咲ちゃんはまたもや難しい役に挑むことになります。
何もかもがとても楽しみな舞台です。

アマンダの言葉どおり私たちは「醜い現実」に生きているかもしれません。
だからこそひとときの「美しい嘘」を夢見たいのです。

続きます。


雪・うさぎ

 

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