風のワルツ

宝塚歌劇、楽しくブログで綴ります。

星組『鎌足』感想〜美しトップコンビの完成形

歴史の勝者とは

 

星組『鎌足』5/11の観劇レポです。

シアター・ドラマシティ公演
作・演出 生田大和


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まずこの舞台の1幕で主役の鎌足並みの活躍だったのは蘇我入鹿役の華形ひかるさん。
見せ場が多くて、かなりおいしい役でした。

では中大兄皇子役の瀬央ゆりあさんにも見せ場は多かったかというと、
残念ながら入鹿ほどの見せ場はありませんでした。

この舞台はストーリーの進め方など分かりやすく、各キャストもそれぞれ際立つ演出で、全体的にはとても良かったです。
それだけに中大兄は2番手のせおっちが演じる役として、もう少しインパクトのある演出がほしいと思いました。

 

主役になった鎌足


主役は中臣鎌足という意外な人物にスポットが当たりました。

鎌足は「大化の改新」の功労者としてあまりにも有名な人物ですが、表舞台に立つのはいつも中大兄皇子。
小学生の時に歴史に登場した中大兄皇子はヒーローのようでした。
鎌足は支え役のおじさんというイメージ。

宝塚でも『あかねさす紫の花』や『飛鳥夕映え』など、主役に寄り添う役どころです。

そんな地味で渋い印象の鎌足を、少年時代から演じるのはエネルギーに満ち溢れた紅ゆずるさん
鎌足のイメージと違う?

・・・と思っていたら、私が知らなかっただけで鎌足は静かでクールなエリートではなく、波乱万丈の苦労人。

舞台を観て、鎌足と紅ゆづるの組み合わせは大成功だと思いました。

 

紅ゆずると綺咲愛里


中臣鎌足 紅ゆずる
与志古  綺咲愛里 (あーちゃん)


紅さんが15歳の鎌足、あーちゃんが10歳の与志古(よしこ)、2人は幼なじみという設定です。

鎌足は本来明るくて聡明な少年です。
足枷となっている家(家業)への反発、学問への情熱、よしこへの淡い恋、入鹿との友情など、紅さんは奇をてらわずストレートに表現。

所々でふと、男役・紅ゆづるの時間がそんなに長くないことを寂しく思います。

紅さんの歌はとても良かったですよ。
もともと声量はあるし音域の幅もあります。
今回はいつもより細かい心情を表現されているように感じました。


あーちやんはいつものあーちゃんです ( 褒めてます!)
華があって、あの笑顔に鎌足もメロメロ。
鎌足がよしこの望む強い男になろうと努力するのも説得力があります。
これは、よしこを演じるあーちゃんの成せる業ですね。

鎌足とよしこは結婚してハッピーなのですが、厳しい試練が待っています。
愛する妻よしこを中大兄皇子への忠義の印に差し出すという。

もう鎌足の悲しみようは半端ではなく。

鎌足の弱さとよしこの潔い判断力と強さと。
この時代の道具としての女性の扱いには胸が痛みますが、それを乗り越えていく2人の愛に感動しました。

 

紅ゆずると華形ひかると有沙瞳


蘇我入鹿 華形ひかる (みつるさん)
皇極帝  有沙瞳 (くらっち)


鎌足と入鹿の関係は一言では表せません。
冒頭でも伝えたとおり、入鹿役のみつるさんの比重の重さに驚きました。

学塾で学ぶみつるさんは若くて、若手の学童に混じっていても違和感ありません。
正義感に溢れて、理想に向かって真っ直ぐに進む入鹿は鎌足の憧れとなって、2人は友情を育みます。
少年少女時代の3人いいですね〜
鎌足らのリーダー的存在をしっかり演じてくれました。


大人になった入鹿の前に現れるのがくらっち演じる皇極帝
まさかの中大兄皇子の母親役です。

くらっちは役ごとに顔が変わりますね。
近年ではジバゴでは可愛らしく、エルベでは聡明に、そして今回は妖艶で冷たく美しく。

演技力、歌唱力にも定評があり期待を裏切らない人ですが、今回まさかのみつるさんとのデュエット舞
官能的で美しいシーンだと思ったら、日本舞踊家であり歌舞伎の振付けもされている藤間勘十郎さんの振付け。
うっとりするような振付と、踊りきった2人は素晴らしかったです。

入鹿を惑わせ、息子皇子を操る様子は魔性の帝。
くらっちの帝は冷酷で強さがあり貫禄もありました。

そして若き日のまっすぐな少年から変貌を遂げた入鹿。
大臣として、思い描いたようにはいかず徐々に心ない権力者へと変貌して行き、鎌足の声も届きません。

2人の友情が壊れて行く様は丁寧に描かれていたと思います。
みつるさん、やっぱり凄い。
『アルジェの男』の愛ちゃん(愛月ひかる) といい、この様な形での専科の方の参加はとても素晴らしいですね。
入鹿は1幕で亡くなりますが、全編終わった後にも印象に残る役でした。

入鹿が討たれるシーンのくらっちの演技は感動です。

 

紅ゆずると瀬央ゆりあ

 

中大兄皇子 瀬央ゆりあ (せおっち)


せおっちには、もっとたくさん見せ場を欲しかったですが、もちろん素敵なシーンもありました。

登場シーンで鎌足との出会いの蹴鞠(けまり)のシーンです。
ここの振付も藤間勘十郎さん。
本当に爽やかで可愛いくてせおっち素敵なんです。

この作品の中大兄皇子の若い頃は、母親に操られて、鎌足を頼りきっているまだ自信のなさそうな皇子。

母の帝の命を受けて、よしこの件では鎌足にとってかなり手厳しい要求をすることになりますが、この時代よくあることなのでしょう。
それぞれの立場での正義とは何か考えさせられますね。

生き残るために( 勝者になる為 )、そして歴史から名前が消えないように人を殺す。
鎌足にとってそれは望む生き方ではなくて、ただ引き返せない道なのです。
紅さんとせおっち、主従関係の微妙な関係性を上手く演じます。

それでもよしこを取り戻し、やっと平安を得たような鎌足。

中大兄が最後に病身の鎌足を訪ねるシーン、
鎌足とよしこの秘密を悟った中大兄の演技に注目です。

せおっちの中大兄は勝者ゆえの孤独や不安も見え隠れし、彼なりの鎌足への信頼と愛を感じさせる皇子でした。

 

一樹千尋と天寿光希


僧旻(そうみん)  一樹千尋
船史恵尺      天寿光希 みっきぃ


この舞台で2人の存在も光りました。
お芝居に登場しながら、不思議な空間でストーリーテラーとしての役割も担います。

みん役の一樹さんはこの作品の土台ですね。
1996年エリザベートのマックス役を最後に専科へ異動されましたが、一樹さんの優しさに溢れたマックス好きだったんです。
あれからもう20年以上経ちましたが、ずっと活躍されていて嬉しいですね。
今回も力強いセリフで作品に厚みを加えていてさすがでした。

 

そして、みっきぃの怪演、と言ってもいいですよね。
大先輩の一樹さんと堂々とコンビ結成!
独特の雰囲気のこの役、絶対みっきぃしかできないです。
絶妙な2人のやりとりが、大いに舞台を盛り上げました。

 

最後に


「歴史は勝者によって作られるもの」みっきぃ演じる恵尺 (えさか) の言葉です。
勝者とは何を基準に決まるのでしょう。

また「志」という言葉が幾度も出てきますが、日本人に根付いている志を大切にする心はこれからもずっと受け継がれるのでしょうね。
私たちの歴史であり後の時代に繋がっていくものとして、全く別次元の話ではないのだと思いました。


この作品の最後のシーンとてもいいです。
激動の時代を生き抜いた鎌足とよしこが2人で柔らかい夕日の中で微笑んでいる。
本当に幸せそう。

2人の美しい姿が紅ゆずる綺咲愛里に重なります。

このトップコンビの美学は完成されたと思います。
だからこそ卒業されるのだと。

 星・うさぎ

 

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