風のワルツ

宝塚歌劇、楽しくブログで綴ります。

月組『桜嵐記』感想ー珠城りょうー美しい集大成

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『 桜嵐記』の感想です。
宝塚大劇場で2回観劇、今日大千秋楽の配信を視聴しました。

珠城りょうさん、美園さくらさんのサヨナラ公演です。

荒ぶる武将(男)たちの根底にある温かい心、愛する者たちへの思いが描かれていて台詞や歌に心揺さぶられ、宝塚歌劇史に名作と言える作品がまた一つ誕生したと思います。

 

珠城りょう / 楠木正行

 

滅びゆく運命のもと自問自答しながら自分の信じた道を行く。

珠城さんの凛々しいもののふの姿はまさに宝塚ならではの美しい武将、
高潔な若武者ぶりは神々しいばかりの輝きがあり、
強くて優しい一本気な正行の演技は多くの人を感動させる力がありました。

 

弁内侍とは出逢いそのものがロマンスで、2人の距離が近づいていくのは自然な成り行き。
2人の最後を見守る満開の桜が美しく、おそらく2人の心にずっと咲きつづける景色でしょう。

珠城さんとさくらちゃんの演技が素晴らしくて、素晴らし過ぎて、何度観ても感動しました。

 

ラストシーンの出陣式では、戻ることのない地を後にする正行の姿と、この舞台(宝塚)から去っていく珠城さんの姿が重なり胸が熱くなりました。

四條畷の合戦の時、正行はまだ推定23歳ほどの若さであったらしく(諸説あり)
その若さに驚きですが、軍事的才能は敵対する北朝からも人の範疇を超えるほどの驚異の念を抱かせたそう。

そのような圧倒的な強さに加え、包容力、統率力、温かさや切なさなど、珠城さんの持ち味が十二分に発揮され集大成にふさわしい役柄でした。

出陣する正行は最高にかっこよかったです。 

 

ハートフルな好青年役がはまり役とされていた珠城さん。
確かに温かくて優しい雰囲気と男気溢れる包容力は珠城さんの大きな魅力でした。

一方私が好きだった役は月雲の皇子の木梨軽皇子やこの桜嵐記の正行など熱くて強くて哀愁を秘めた切ない役で、いずれも上田久美子先生の作品でした。
総じて珠城さんは作品に恵まれた宝塚人生だったと思います。 

 

余談になりますが、現在河内長野市では正成・正行親子をテーマにしたNHK大河ドラマ「楠公さん」実現に向けて署名活動をされています。ご興味のある方は河内長野市HPをご覧ください。「楠公さん」を大河ドラマに! - 河内長野市ホームページ

 

そしてこの作品では2人の頼もしい弟 たちとの絆も大きなテーマとなっています。
愛しい人を残し戦う正行、遠く離れた人を思い戦う正時、兄たちの志を胸に戦う正儀。
三人三様、生き生きと描かれていたこともこの作品の大きな魅力でした。
 
 

鳳月杏 / 楠木正時


まずは優しくて温かい次男の正時。

戦より大好きな料理作り。
料理は父、正成から伝授されたものだとか。

ダイナミックな猪の丸焼きの焼き具合や出汁にもこだわる本格派。

今の世に生まれていたらマイホームパパとなり穏やかな一生を終えただろうと思わせる。
嫁の百合を大切に思っています。
兄を慕い弟を可愛がり嫁を想う、愛の人。
彼の周りはいつも春のように暖かくてそれだけに結末は悲しい。

ちなつさんのお芝居がいいですね。ちなつさんはいつもいい。
兄とは別の包容力で周りの人を温かく包み込む正時の人となりが十分に伝わってきました。

IAFAでは珠城さんの父親役、ピガールでは恋敵、そして桜嵐記では弟役と、別箱公演も含めると珠城さんと絡む役が多かったですね。

 

先日来年のカレンダーの発表があり、ちなつさんは月組の次期2番手と思われ大変嬉しいです。

月組、花組、月組とどの組にいてもどの役でも必ず期待に応えてくれるので、れいこさんにとっても心強いことでしょう。
ちなつさんへの信頼が厚かった珠城さんも、ちなつさんの活躍を期待されていると思っています。
 

月城かなと/ 楠木正儀
 

 

そしてやんちゃな三男の正儀役の月城かなとさん。
春にはクールで色気ダダもれ大人の男ラッチマンだった方が、いきなり「戦場は遊び場や」と登場する面白さ。

最後の2番手役はやっぱりややコミカル寄りなお役なのねと思うものの、れいこさんのこのような(お茶目な)役はいよいよ見納めになりそうで…そう思うと寂しいものです。(十分堪能しました)

しかし正儀は男らしい武将でもあります。
血気盛んではっきりもの言う。しかも勢いのある河内弁。それを誇りに思っているところも良い!←言い切る

歴史に伝わるところでは正儀は四條畷の合戦の後、父、兄に恥じない立派な人生を送ります。
 
さて、正儀役のれいこさん、
荒ぶる武将、コテコテの関西弁、コミカル、がらっぱち、やんちゃと、およそ月城かなとの任とは真逆の役を2番手最後の公演で演じたことは大きな意味があったと思います。
最大の当たり役を得た珠城さん、鳳月さんの弟としての体当たり演技は必ず今後に生きるはず。

れいこさんは実力に穴がなくノーブルな風貌から大人でクラシカルでクールなイメージがありますが、プリンス系やイケオジ系はもちろん、ダークな役もいけると思ってます。(かっこいいダーク役限定)

珠城さんから受け取ったトップのバトンは重いと思いますが、2番手時代に経験した数々の役柄を生かして月組に新たな花を咲かせることを期待しています。

 

暁千星 / 後村上天皇

 

ありちゃんの天皇役は意外でしたが、佇まいが美しく気品があり物腰は柔らかくても、南朝を回復するべく父・後醍醐天皇の遺志を継ぐ者として強さもある後村上天皇を好演。

また彼自身は平和主義者であり、父親の呪縛から逃れることができず多くの思いを抱えているところがあり憂いを含んだありちゃんの表情や演技が光りました。

年ふれば思ひぞ出づる吉野山
また故郷の名や残るらん
故郷の名や残る…

後村上天皇が出陣式でうたった和歌と、その後に続く「戻れよ」のセリフには優しさと切なさと力強さが入り混じっていて胸を打たれました。

 

印象に残った方たち
 

 

光月るう / 楠木正儀(老年)
始まりに私たちを南北朝の世界へと誘う難しい役どころですが、明瞭な台詞回しでわかりやすくスマートに導いてくれて、自然な形でその世界観へ入り込んでいました。老年期の正儀という設定も違和感なしで良かったです。

同じく夏月都さん、老年期の弁内侍を演じられましたが、彼女がその後もしっかりと人生を歩んできたと思えるような役作りでした。

 
紫門ゆりや / 高師直
ギラギラとした悪の華が見事にハマり、演技の振り幅の強さを感じました。
その爽やかで優しげなマスクから、ロイヤル感あふれるゆりさんとは真逆の色濃い師直役があまりに素晴らしく、専科での活躍が俄然楽しみになっています。


千海華蘭  / ジンベエ
実直でお人好しで情の熱いジンベエはこの物語の清涼剤的な役割もあり、そんな愛すべき男を舞台に息づかせたからんちゃんは素晴らしい!
いつも印象に残る役作りにわくわくします。

 

輝月ゆうま / 楠木正成
この役はまゆぽん以外考えられないと思えるほどのはまり役。
堂々とした風貌、武将としても息子たちの父親としても最高でした。

四條畷の合戦で戦う息子たちの思い出の中で、正成が歌う「エンヤコラ エンヤコラ どっこいせ」には涙しました。
ゆりさんと共に専科での活躍を期待しています。

 

海乃美月 / 百合
正時(鳳月)の可愛いお嫁さん。
ちなつさんとは2度目の夫婦役ですね。
出島でも相手役だったので息もぴったり。
悲しい運命を辿りますが最後の瞬間まで優しい正時の愛に包まれていたのではないかと。
そのような正時と百合の絆をちなうみから感じました。

 

風間柚乃 / 足利尊氏 
大劇場公演ではコミカルな役が続いてましたが、今回は歴史上の人物。
歌劇誌の座談会で日本物の型芝居は難しいと語ってましたがいつもながらビシッと決まってましたね。
ショーの銀橋ソロのシーンではふとなつめさんを感じましたが、やはり大物になる予感がします。

 

一樹千尋 / 後醍醐天皇
凄い迫力でしたね。
物語の中で象徴的に登場しますが物語の大きな要となる役です。
一樹さんの強さ、執念の演技はさすがで、存在感が半端なかったです。

 

美園さくら / 弁内侍

 

最後にヒロイン弁内侍役の美園さくらさん。

弁内侍は心に傷を負っていますがその傷を癒やしていくのが正行です。

先述したように正行との出逢いがロマンスで、男らしく眉目秀麗な正行の側にいて惚れないわけがなく、次第に彼女にとって大切な人になります。

 

同じ和物のお披露目公演の時はまだ硬さがありましたが、グッと女性らしくなり情感あふれる演技と歌で、短期間でのさくらちゃんの成長を感じました。

大劇場公演での主演は4作でしたが凛とした芯の強いヒロインが多く、どの役も脳裏に焼き付いています。

 

事情は違いますが自ら命を絶った儚げな百合に比べて、弁内侍は運命に翻弄されながらも強さを感じる女性で情熱的な人です。

桜の下の2人の舞は美しかったですね。
「今は生きたい」と言う台詞が悲しくて泣けました。

短い人生を真っ直ぐ生きて散っていった正行の人生に彩りをもたらし、彼女もその後の人生で彼を忘れることはなかったでしょう。

サヨナラの作品でこのように美しく静かで深い愛を演じることができてコンビの集大成としても素晴らしいことだと思いました。

 

幸せな夢の時

 

『Dream Chaser』やサヨナラショーのこともたくさん語りたいですが、思いのほか文字数が多くなったのでここは『桜嵐記』のみの感想にします。

 

最後に一言だけ、

サヨナラショーの珠城さんも華やかでかっこよくて素敵でしたね!
さくらちゃんもゴージャスで美しくて良いコンビだったと思います。

歌やダンスを観ていると月組公演の観劇後はいつも心が温かく幸せな気持ちになっていたことを思い出しました。

2人の心の中にも美しい桜の花が咲き続けることを願いつつ、

珠城りょうさん、美園さくらさん、数々の素敵な夢をありがとうございました。

 

月・うさぎ