雪組公演『f f f -フォルティッシッシモ-』『シルクロード~盗賊と宝石~』
宝塚大劇場公演が2021年2月8日(月)幕を閉じました。
寂しさより何よりも無事に千秋楽の幕が降りて本当に良かったです。
昨日はライビュにて望海さんたちをお見送りしました。
この1ヶ月余り、観劇の日々を過ごせたことに感謝しています。
まだ余韻が冷めない状況ですが『fff』について観劇後に書き留めていたものをまとめてみました。
- 予想できない!
- 運命が扉を叩く
- ベートーヴェンと○△□
- ボンの人たち
- ルートヴィヒとゲーテ
- ウィーンの人たち
- ルートヴィヒとナポレオン
- ハイリゲンシュタットの遺書
- ルートヴィヒと謎の女
- 人生は幸せだった!
予想できない!
望海さんがベートーヴェンを演じると発表された時、頭の中でストーリーを思い描きました。
音楽家として栄光の日々に隠された苦悩と挫折。
不滅の恋人との情熱的な愛、別れ…。
音楽と恋に生きたベートーヴェンの人生をドラマティックに描いた超大作!
こんな感じかな…と。
もちろん上田久美子先生がこんな安易な発想↑をされるはずもなく、初観劇の日にはかなり衝撃を受けました。心の中で雄叫びあげるくらい。
何度か観るうちに難しいことを考えず望海さんに身を任せよう←と思い至りましたが。
贔屓のサヨナラ公演ということも相まって忘れられない作品になりそうです。
ここからは望海さんを中心に ストーリーやキャストについて盛大にネタバレしながら私見、感想を一気に書いていきます。最後の方はのぞ様への愛が高まってきてグタグタ〜
(ベートーヴェンをルートヴィヒ、或いはルイと表記)
運命が扉を叩く
交響曲第5番「運命」はルートヴィヒの人生を象徴していると言われてますが、fffもこの曲をモチーフにしてストーリーが描かれています。
女が少年ルートヴィヒの家の扉をノックする。
ドンドンドンドン
運命の扉が開かれた時から少年は女と一緒に生きてきた。
女が誰なのかは知らない。
交響曲第5番「運命」の始まりは運命の扉を叩く(と言われている)衝撃的な音ジャジャジャジャーンから始まります。
やがて青年となり音楽家として成功するが失聴や失恋、体調不良、次々と苦難が押し寄せてきて生きる希望を失いそうになる。
女の存在を強く意識するようになる。お前は誰だ⁈
人生の終焉を前にして女の正体がわかり受け入れることで彼は最後のシンフォニーを完成させることができた。
交響曲第5番の第1楽章は重く暗い感じで始まりますが、最後の第4楽章になると明るくエネルギーに満ちたメロディになります。
自分に与えられた運命を愛するまでに至るルートヴィヒの人生を壮大なシンフォニーの中に息づかせることで完成した素晴らしい作品です。
見事に応えた望海さん真彩ちゃん雪組の皆さんには観劇度に感動が深まりました。
この作品でお見送りできて良かった。
ベートーヴェンと○△□
今まで望海さんが演じた役は仲間や同志の繋がりの中で生きる男が多かったですが、ルートヴィヒは登場人物それぞれと異なる形で関わっていきます。
ナポレオンとは実際に話したわけではなく。
ゲーテとは出会いと訣別を。
ゲルハルトは親友。
不思議な関係の謎の女。(いいのか悪いのか相性は良さそう)
実生活で関わっている人よりナポレオンやゲーテらとの精神的な繋がりに重きを置くという斬新な演出には驚きと同時に面白さを感じました。
作品の中にはドンジュアンやロベスピエール、オスカーや吉村貫一郎、そして最後は『SV』と望海コレクションの要素が随所に散りばめられていて、そんなサプライズは嬉しくなります。
そしてユニークな天上界の天使や音楽家たちの存在。
これについては以前感想を書きました。
ボンの人たち
父親(奏乃はると)はアルコール依存で暴力的で残念な父。
奏乃さんは個性の強い役ほど威力を発揮されると思ってますがやはり期待以上でした。
「幸福な家庭は似たようなものだが、不幸な家庭はみんな事情が異なっている。」
アンナカレーニナの書き出しを思い出します。
確かに不幸の形は千差万別で悲しみや苦しみは他人にはわからない。
わからないので人は自分が誰よりも不幸だと思いがちです。
小さなルイが自分の不幸に気づいた時、彼の心の中の扉を女がノックしました。
僕なんて死んじまえ。
そんなルイに希望の光を灯したのがゲルハルト(朝美絢)とロールヘン(朝月希和)。
前作で妖艶な美女を演じたあーさが爽やかで心優しい青年を好演しています。
この作品で圧倒的に前に出てくるのはベートーヴェン、ナポレオン、ゲーテの天才の3人組。
好青年役を印象づけるのは意外と難しいですが、あーさは出過ぎず引き過ぎず程よいバランスで聡明なゲルハルトの存在感を出していてとても良かったと思います。
彼の妻となりルイがずっと慕っていたロールヘンひらめちゃん。
風と共に去りぬのメラニーを思わせる柔和な女性。
キャロルと吉次さんからの転身がお見事な2人でした。
お芝居上手なひまりちゃん(野々花ひまり)には一気に少年時代のルイに引き戻され、青年になったあみちゃん(彩海せら)の男っぷりが上がっていて驚きました。歌も上手くて素敵な男役に成長されましたね。りさちゃん(星南のぞみ)の演技力も上がってきてこれからの雪組も楽しみです。
そしてルイに語りかけるケンジくん(ゆめ真音)の言葉は優しくてとても印象に残りました。ありがとう。
ルイの母親役ひーこさん(笙乃茅桜)
母親の他に「小さな炎」となり美しいダンスを披露されます。
ルイが希望を見つけたら炎となって静かに現れる。
彼が元気なら力強く舞う。
彼に希望が無くなれば消えてしまう。
まるでルイの母親のように彼の気持ちに寄り添う優しい炎は大変印象的でした。
東宝公演でも美しい炎を灯してください。
ルートヴィヒとゲーテ
『わが文学は人間の光』静かな佇まいでルートヴィヒとナポレオンを眺めているゲーテ(彩凪翔)。
幅広い知識と教養を持ち何ごとも高い基準でこなす彼もまた天才。蛇足ですが恋愛には自由奔放で非常にモテた。
実年齢はルイよりかなり上、彩凪ゲーテの落ち着いた大人のエレガントな雰囲気と知的な物腰は男役 彩凪翔の集大成に相応しい役作りでした。
彩凪ゲーテを観て彼のことをもっと知りたい、彼の詩を読む贅沢な時間を過ごしてみたい。そんな風に思いました。
ルートヴィヒとゲーテが出会うエピソードは2人の感性や性格の違いがよくわかるシーンでしたね。
ルイやナポレオンを見つめる冷静なゲーテの視線が、望海さんと咲ちゃんへ向ける翔ちゃんの優しい視線に感じてじわっときました。
翔ちゃん、望海さんと一緒に駆け抜けていくのですね。
今の彩凪翔主演の舞台が観たかったという叶わぬ夢。
Sho-Wでいい夢を見せてくれたことは救いになっています。
翔ちゃんの最後の役がゲーテで良かった。
まだまだ素敵に輝いてください。
ウィーンの人たち
気難しいルートヴィヒを大きく包み込んで支援していたルドルフ(綾凰華)
あやなちゃんが演じる役は高い確率でいい人ですね。セリフに優しさが溢れています。
美しい恋人ジュリエッタ(夢白あや) ルイとは結婚観が違い過ぎました。華があり大人な雰囲気が楽しみな人。
彼女の婚約者(真地佑果)まちくんはいつも役を凄く研究していると思う。エネルギッシュでその元気な笑顔が好きでした。ありがとう。
そして配役発表でいつも気になっていたのがカリさん(煌羽レオ)。メッテルニヒはカリさんの持ち味を生かせる役でとても素敵でした。(どんなお料理作られるのだろう)
寂しくなります。
ルートヴィヒとナポレオン
「我が戦闘は人間の願い」と颯爽と現れるのはルートヴィヒが多大な憧れを抱いたナポレオン(彩風咲奈)。
彼を讃えて交響曲第3番を献呈しようと思うほどでしたが、共和主義者であるルートヴィヒは帝位に付いたナポレオンに失望。
「裏切られたわね」彼はまた一つ希望を失い内なる女の声に打ちのめされるシーンがあります。彼の安らぎはどこにあるのでしょう。
彩風ナポレオンは雄々しくて精悍ながら美しくてまさに宝塚のナポレオン。
メイクや髪型にもこだわりが感じられ戴冠式は貫禄もあり立派でした。
ルートヴィヒがボンに戻りロールヘンの死を知った後彼の側の小さな炎が消えてしまいます。
力尽きたルートヴィヒが夢の中でナポレオンに助けられ、やがて2人は音楽と戦術の法則を見つけたかのように兵隊たちを動かしていきます。
音楽は交響曲第5番4楽章
タタタタン タタタタン
静寂の雪原でシンフォニーに合わせて戦列をつくる兵士たち。
静から動へと見応えあるシーンでルートヴィヒが再生するきっかけになる上田先生のこだわりのシーンだと思います。
今まで結びつきの強い役が多かったのぞさきが絡むのはこのシーンだけ。
しかも現実ではない夢の中。
夢の終わり、消えていくナポレオン。
女は彼から形見にライフルを貰ったと。
ナポレオンも人生の終わりの時、もう1人の自分を受け入れたのか。
人は死を前にすると誰しもそうなるのでしょうか。
ベートーヴェン、ナポレオン、ゲーテ。
作品は3人の天才の個性や繋がりが効果的に描かれていて望海ー彩風ー彩凪のチームワークが最高でした。
ハイリゲンシュタットの遺書
劇中でナポレオンに失望し聴覚の不安に襲われたルートヴィヒが歌うのがハイリゲンシュタットの遺書。
ルートヴィヒが書いた有名な遺書について簡単に触れておきます。
ルイがウィーン郊外ハイリゲンシュタットで部屋を借りて滞在していたのが31歳の時。
難聴の温泉治療のため。
そこでの穏やかな生活は孤独との闘いでもあり心が閉ざされていく。
先の不安が恐怖を生む。
1802年10月6日ついに耐えきれなくなり2人の弟に手紙を書いた。
内容は、難聴の苦しみから命を絶つことを考えたこと。それを引き止めたのは芸術であったこと。自分に課せられた創造をやり遂げずこの世をさることは出来ないと思ったことなど。
この手紙は投函されることはなく24年間眠り、彼の死後発見され後に「遺書」と名付けられました。
しかし彼は死ぬほどの苦しみから凄まじいエネルギーで自己再生に至ってい気ます。最後は力強いくらいに。
手紙に思いを書きとめることで頭が整理され物事の本質を悟ったのかもしれません。
病気にたち向かうのてはなく、自分の運命としてその不幸を受け入れることを悟っているかのように。
fffで望海さんが歌うハイリゲンシュタットの遺書、見事でしたね!
ルイの苦しみも悲しみも音楽への情熱もとても良く表現されていました。
これほど歌に素晴らしい表現力を持つトップに出会えて私の人生も豊かになりました。
ルートヴィヒと謎の女
娘役トップ真彩希帆の宝塚最後の役が謎の女。
可愛いプリンセスでも美貌の女優でも陽気で皆に愛されてる町娘でもなく。
それどころか人類の嘆く声から産まれた女、誰もが憎む女。
よって人にあらず。ルートヴィヒや皆の人生に寄り添うよう存在する女。
このような関係性の2人をサヨナラ公演で観るとは想像もしませんでした。
それでも私は真彩希帆の演じた役の中で1番魅力を感じます。
娘役という枠組みを外して演じた謎の女には真彩ちゃんの役者としての無限の広がりを感じました。
Twitterでも呟きましたが、以前望海さんが真彩ちゃんのことをこれからが恐ろしい子と言われていたことがよくわかりました。どこまで行くのでしょう。
そしてそれは望海さんも同じ。
ヌードルスが集大成の望海さん、集大成をも飛び越えてしまい男役娘役を超えた演者として役者として、2人だから完成した舞台ではないかと。
「望海風斗」さんの相手役が「真彩希帆」さんで本当に良かったです。
人生は幸せだった!
「運命」と名付けた不幸を愛することは自分自身を愛すること。
その時、彼が書きたかったシンフォニーが完成します。
誰もが歌わずにいられない喜びの歌。
もし彼が不幸の中に溺れていたらこのような曲を書くことは不可能でした。
ですが不幸を知っているからこそ完成した曲でもあります。
なのでルートヴィヒが叫ぶ「人生は幸せだった!」は彼の最後にとてもふさわしい言葉だと思います。
彼ではなく望海さんが叫ぶ「人生は幸せだった!」はそのまま望海さんの彩り豊かな宝塚人生を表していて、
何度も言いますがサヨナラ公演がこの作品であったことを心から嬉しく思います。
幸せです。上田先生に感謝します。
望海さんはルートヴィヒ役を凄まじいエネルギーで演じ完全燃焼され大劇場最後の舞台を全うされました。
まだまだ東宝公演があります。
シルクロードのこと、サヨナラショーのこと書きたいことはたくさんありますが長文になリました。
ダーーと書いたので誤字脱字も多そうです。
後ほど妹に添削してもらいましょう。
ここまでお読みいただき本当に有難うございます。
続きはまた別日に書きたいと思います。
雪・うさぎ